
着物の左前と右前の違いを徹底解説
着物を着る機会があると、「左前と右前、どちらが正しいのだろう?」と迷うことがありませんか?特に着物を普段着ない方にとって、この衿合わせは覚えにくいポイントです。実は着物の衿合わせには、男女問わず守るべき重要なルールがあります。着物は必ず「右前」で着用するのが正解で、「左前」は死装束の着方とされているのです。では、なぜ着物は右前なのか、左前がタブーとされる理由は何か、そして男性も女性も同じ着方をするのはなぜなのでしょうか。この記事では、着物の左前と右前の違い、正しい着方の覚え方、そしてどちらの衿が上になるべきかなど、着物の衿合わせについて詳しく解説します。着物を美しく着こなすための基本知識として、ぜひ参考にしてください。
-
着物は男女問わず「右前」が正解で、「左前」は死装束の着方である
-
右前とは相手から見て右側の衿が左側の衿の上に重なる状態のこと
-
左前になった着物を着ると縁起が悪いとされマナー違反になる
-
右前の覚え方として「衿元がyの形」や「右手が懐に入りやすい」などがある
着物の右前と左前とは何か
着物を着る際に最も基本的なマナーとなるのが「衿合わせ」です。この衿合わせには「右前」と「左前」という二つの方法があります。これらの言葉は相手から見た状態を表現しています。
「右前」とは、相手から見て右側の衿が左側の衿の上に重なって見える状態のことを指します。自分自身から見ると、左側の衿が上になっている状態です。例えば、鏡に映った自分の姿を確認すると、左側の衿が上に重なっていれば「右前」で着ていることになります。
一方、「左前」は相手から見て左側の衿が右側の衿の上に重なって見える状態です。自分から見ると右側の衿が上になっています。この左前の状態は、通常の着物の着方としては適切ではありません。
衿合わせの「前」という言葉には「先」という意味もあります。つまり「右前」は「右手に持った身頃を先に合わせる」ということを意味しているのです。着物を着る際には、まず右手で持った身頃(自分から見て右側の部分)を体に巻き付け、その上から左手で持った身頃(自分から見て左側の部分)を重ねるという手順になります。
このように、着物の衿合わせは単なる見た目の問題ではなく、着付けの手順や文化的な背景も含んだ重要な要素なのです。着物を美しく着こなすためには、この基本的な知識をしっかりと理解しておくことが大切です
着物はどっちが上になるのが正解か
着物を着る際、「どちらの衿が上になるべきか」という疑問を持つ方は少なくありません。特に着物を普段着ない方にとっては、右前・左前という言葉だけでは分かりにくいものです。
正解は、着物は必ず「右前」で着用します。つまり、自分から見て左側の衿が上になるのが正しい着方です。相手から見ると右側の衿が上に見えるこの状態が、日本の伝統的な着物の着方として確立されています。
着物を着るときの手順としては、まず右側の身頃を体に巻き付け、その上から左側の身頃を重ねます。この時、右側の身頃は少し持ち上げて裾を短くし、左側の身頃で完全に覆い隠すようにすると美しく仕上がります。また、背縫いが背中の中心にくるように調整することも大切です。
この右前という着方は、男女問わず、また着物の種類を問わず共通のルールです。振袖や訪問着といったフォーマルな着物はもちろん、浴衣や普段着の小紋に至るまで、すべての和装において右前が基本となります。
また、着物の下に着る長襦袢や肌襦袢も同様に右前で着用します。和装全般において「右前」は絶対的なルールであり、これを守ることが美しい着姿の第一歩となるのです。
初めて着物を着る方は特に、鏡で自分の姿を確認する際に「左の衿が上になっているか」をチェックする習慣をつけると良いでしょう。
着物の右前が正しい理由とは
着物を右前で着るべき理由はいくつか考えられますが、最も実用的な理由は「動きやすさ」にあります。日本の伝統衣装である着物は、長い歴史の中で人々の生活に合わせて進化してきました。
まず、多くの人が右利きであることを考慮すると、右前で着ることで右手を胸元や懐に入れやすくなります。江戸時代以前は、ポケットの代わりに着物の胸元に小物を入れる習慣がありました。右前だと右手でスムーズに物の出し入れができるため、日常生活において非常に合理的だったのです。
また、右前で着ると左胸、つまり心臓がある側を守るような形になります。これは武家社会において、心臓を守るという防御的な意味合いもあったと考えられています。「まず右側の身頃で心臓を守り、その上から左側の身頃を重ねる」という着方は、実用性と安全性を兼ね備えていたのです。
さらに、着物は右前で着ると動作がしやすいという特徴があります。実際に左前で着てみると動きにくさを感じるでしょう。これは着物の構造が右前を前提に設計されているためです。
このように、着物が右前で着られるようになったのは、単なる慣習や形式ではなく、日本人の生活様式や身体的特性に合わせた実用的な理由があったのです。現代においても、この伝統的な着方を守ることで、着物本来の美しさと機能性を最大限に引き出すことができます。
着物の左前は死装束の意味がある
着物を左前で着ることは、日本の伝統的な考え方では非常に忌み嫌われています。なぜなら、左前は「死装束」の着方だからです。死装束とは、亡くなった方に最後に着せる白い着物のことで、通常の着物とは逆の左前で着せる習慣があります。
この風習には様々な由来が考えられています。一つは「逆さごと」と呼ばれる考え方です。死者の世界は生者の世界と反対であるという思想から、生きている人は右前、亡くなった人には左前に着せるようになったとされています。逆さごとには他にも、故人が使っていた布団を夜に干す「夜干し」や、枕元に置く屏風を上下逆にする「逆さ屏風」などがあります。
また別の説として、仏教の教えに基づく「奪衣婆(だつえば)よけ」という考え方もあります。奪衣婆とは、三途の川で亡くなった人から衣服を剥ぎ取り、その重さで生前の罪を量るとされる存在です。左前にすることで奪衣婆に衣服を取られにくくするという意味があったとされています。
さらに、「死者は神仏に近い尊い存在」とみなす考え方から、かつて高貴な人だけが許されていた左前の着方を死者に施すという説もあります。
いずれにせよ、左前は死者のための着方として定着しており、生きている人が左前で着物を着ることは縁起が悪いとされています。そのため、着物を着る際には必ず右前で着用することが大切です。うっかり左前で着てしまうと、周囲の人に不快感を与えたり、自分自身の不運を招いたりする可能性があるので注意しましょう。
右前と左前の見分け方と覚え方
着物の右前と左前を確実に見分けるには、いくつかの簡単な方法があります。これらを覚えておくことで、着物の着付けに自信を持つことができるでしょう。
最も分かりやすい覚え方は「衿元がYの形になる」というものです。正しく右前で着物を着ると、相手から見た衿元がアルファベットの小文字「y」の形になります。「あなた(you)から見て衿元がy」と覚えると忘れにくいでしょう。鏡で自分の姿を確認するときも、この「y」の形を意識すると良いでしょう。
次に実用的な覚え方として「右手が懐に入りやすいか」という点があります。着物は右利きの人向けに作られているため、右前で着ると右手を胸元や懐に自然に入れることができます。実際に着てみて、右手がスムーズに入るようであれば正しく右前で着ていることになります。
また、着物の柄にも注目してみましょう。多くの着物は、着用したときに美しく見えるように柄が配置されています。一般的に左側の身頃の方が柄が華やかであることが多いため、その部分が外側(上)になるように着ると自然と右前になります。特に振袖や訪問着などの正装では、この特徴が顕著です。
女性の方は「洋服とは逆」と覚えるのも効果的です。女性の洋服のシャツやブラウスは左前が多いですが、着物はその逆の右前です。この対比を意識することで、着物の正しい着方を思い出しやすくなります。
これらの方法を組み合わせて覚えておくと、着物の着付けで迷うことが少なくなります。特に初心者の方は、実際に着る前に一度確認する習慣をつけると安心です。
着物の左前と右前に関する疑問解決
女性の着物も左前ではなく右前が正解
女性の洋服では、シャツやブラウスの前合わせが左前になっていることが多いため、「着物も同じではないか」と考える方もいるかもしれません。しかし、これは大きな誤解です。女性の着物も必ず右前で着用します。
洋服の場合、男女で前合わせが異なる理由は歴史的な背景があります。西洋では、裕福な女性は使用人に服を着せてもらう習慣があったため、使用人から見て右側にボタンがあると留めやすいという理由から、女性の服は左前になったとされています。一方、男性は自分で服を着るため、右利きの人が留めやすいように右前になりました。
しかし、日本の着物文化では男女の区別なく右前が基本です。これは日本の伝統や文化に根ざしたルールであり、女性だからといって例外はありません。振袖や訪問着、小紋や紬など、どのような種類の着物であっても女性は右前で着用します。
女性の着物を美しく着こなすためには、衿合わせの角度にも注意が必要です。フォーマルな場では衿元をほぼ直角(約90度)に合わせ、喉仏が隠れるくらい高めにするのが一般的です。カジュアルな場では、衿の角度を緩め(約60度)、喉仏が見えるくらいにすると良いでしょう。
また、年齢や体型によっても理想的な衿合わせは異なります。若い方は直角に近い形で引き締まった印象に、年配の方は角度を緩めてこなれた雰囲気を演出できます。これらの細かな調整も、すべて右前を基本として行います。
女性が着物を着る機会は成人式や結婚式など特別な日が多いため、正しい着方で美しく着こなしたいものです。右前の原則を守りつつ、TPOに合わせた衿合わせを心がけましょう。
男性の着物も右前で着るのが正しい
男性の着物も、女性と同様に右前で着用するのが正しい方法です。洋服では男性のシャツやジャケットは右前が基本ですが、着物も同じく右前が原則となります。つまり、男性は洋服も和服も同じ前合わせ方向ということになります。
男性の着物の種類には、礼装である黒紋付羽織袴をはじめ、準礼装の色無地や紬、カジュアルな着物など様々ありますが、いずれも右前で着用します。また、男性が夏に着用する浴衣や作務衣なども同様に右前が基本です。
ただし、男性の着物の衿合わせには女性とは異なる特徴があります。男性の場合は、女性に比べて首の前側の襟元は広めに開け、後ろ側の衿元は開けずにぴったりと着付けるのが一般的です。これにより、男性らしい凛とした印象を与えることができます。
また、男性の着物は女性のものと比べて全体的にシンプルな構造をしていますが、それでも前合わせの基本は変わりません。右手で右側の身頃を持ち、まず体に巻き付け、その上から左側の身頃を重ねるという手順で着用します。
男性が着物を着る機会は、結婚式や成人式、お茶会や日本舞踊の発表会など、特別な場面が多いでしょう。そのような場で恥をかかないためにも、右前という基本的なルールはしっかりと覚えておくことが大切です。
現代では着物を着る機会が減っているため、男性が着付けに不慣れなことも多いですが、「右前」という原則だけは必ず守りましょう。正しい着方で着物を着ることで、日本の伝統文化を尊重する姿勢を示すことができます。
着物の左前と男女による違いはない
着物の衿合わせに関して、男女による違いはありません。男性も女性も、着物は必ず右前で着用します。これは日本の伝統文化における普遍的なルールであり、性別によって例外が設けられることはないのです。
洋服では男性と女性で前合わせの方向が異なりますが、着物ではそのような区別はありません。この点は、着物初心者がしばしば混乱する部分でもあります。特に洋服に慣れた現代人にとっては、「男女で着方が違うのではないか」と考えてしまいがちですが、着物においては男女共通で右前が正解です。
また、左前についても男女による違いはありません。左前は死装束の着方であり、生きている人間が着用する場合は男女問わずマナー違反となります。亡くなった方に着せる死装束も、故人の性別に関係なく左前で着せるのが習わしです。
着物の着付けの細部には男女で異なる部分もあります。例えば、衿元の開き具合や帯の結び方、着物の丈の調整方法などは男性と女性で異なります。しかし、衿合わせの基本原則である「右前」という点については、男女共通のルールとして確立されています。
このように、着物の衿合わせには男女の区別がないという点は、日本の伝統文化の特徴の一つと言えるでしょう。性別に関わらず同じルールが適用されることで、着物文化の統一性と普遍性が保たれているのです。着物を着る際には、この基本的なルールを理解し、正しく美しく着こなすことが大切です。
右前と左前の男女による違いは洋服のみ
洋服と着物では、前合わせのルールが大きく異なります。特に注目すべきは、洋服では男女で前合わせの方向が異なるのに対し、着物では男女共通で右前が基本であるという点です。
洋服の場合、男性のシャツやジャケットは右前(ボタンが右側に付いている)であるのに対し、女性のブラウスやジャケットは左前(ボタンが左側に付いている)が一般的です。この違いが生まれた背景には、西洋の歴史的な事情があります。
中世ヨーロッパでは、裕福な女性は使用人に服を着せてもらうのが一般的でした。使用人が女性の正面に立ってボタンを留めやすいように、女性の服は左側にボタンが付けられるようになりました。一方、男性は自分で服を着る習慣があったため、右利きの人が留めやすいように右側にボタンが付けられたのです。
これに対して着物は、男女問わず右前で着用します。これは日本の伝統文化に根ざしたルールであり、奈良時代から続く習慣です。着物文化では、性別による前合わせの区別を設けず、統一されたルールを採用しているのです。
このような違いは、東西の文化や歴史の違いを反映しています。西洋の服飾文化では男女の区別が明確にされていますが、日本の着物文化では男女共通のルールが重視されているのです。
着物の右前になった由来と歴史
着物が右前で着られるようになった歴史は、奈良時代にまでさかのぼります。719年(養老3年)に元正天皇によって「発令天下百姓右衿」という定めが発令されました。これは「すべての人は右前で衣服を着なさい」という意味の法律で、当時の中国(唐)の習慣に倣ったものとされています。
それ以前の日本では、衿合わせに明確なルールはなく、古墳時代の埴輪を見ると衿合わせはバラバラだったことがわかります。一説によると、高貴な人は左前、それ以外の人は右前で着ていた時期もあったとされています。
右前が定着した理由としては、実用的な面も考えられます。右前で着ると、多くの人が右利きであることを考慮して、右手を懐に入れやすくなります。また、左胸、つまり心臓がある側を守るような形になるため、武家社会においては防御的な意味合いもあったとされています。
さらに、右前で着ると動作がしやすいという特徴があります。実際に左前で着てみると動きにくさを感じるでしょう。これは着物の構造が右前を前提に設計されているためです。
このように、着物が右前で着られるようになったのは、単なる慣習や形式ではなく、日本人の生活様式や身体的特性に合わせた実用的な理由があったのです。現代においても、この伝統的な着方を守ることで、着物本来の美しさと機能性を最大限に引き出すことができます。
SNS投稿時に気をつけたい左右反転の注意点
着物姿を写真に収めてSNSに投稿する際、思わぬトラブルに見舞われることがあります。それは、スマートフォンのカメラ機能による左右反転の問題です。スマートフォンのインカメラ(自撮り用カメラ)で撮影すると、鏡のように画像が左右反転して表示されることがあります。そのため、実際には正しく右前で着物を着ていても、写真では左前に見えてしまうことがあるのです。これをそのままSNSに投稿すると、「死装束のように着ている」と指摘されたり、不快な思いをさせてしまったりする可能性があります。
この問題を避けるためには、以下の対策が有効です。
まず、撮影前にスマートフォンのカメラ設定を確認しましょう。多くのスマートフォンでは、設定から「自撮り時に左右反転しない」というオプションを選択できます。また、撮影後に写真編集アプリを使って左右を反転させることも可能です。ほとんどの写真編集アプリには「左右反転」や「水平方向に反転」という機能があります。
さらに、自撮りではなく友人や家族に撮影してもらうという方法もあります。背面カメラで撮影すれば、左右反転の問題は発生しません。
SNSに投稿する前には、必ず写真の衿合わせを確認するクセをつけましょう。「相手から見て衿元がyの字になっているか」というポイントを覚えておくと、写真でも正しい衿合わせかどうかを判断しやすくなります。
このような小さな注意点に気を配ることで、着物文化を正しく伝え、自分自身も恥ずかしい思いをせずに済むでしょう。
着物の左前と右前の違いを知っておくべき重要ポイント
- 着物は男女問わず「右前」で着用するのが正解である
- 「右前」とは相手から見て右側の衿が左側の衿の上に重なる状態を指す
- 「左前」は死装束の着方であり、生きている人が着用するのは縁起が悪い
- 死装束を左前にする由来には「逆さごと説」「奪衣婆よけ説」などがある
- 右前が正装となったのは奈良時代の養老3年(719年)の衣服令からである
- 右前の覚え方として「衿元がyの形になる」という方法が効果的である
- 右前だと右手が懐に入れやすく、物の出し入れがスムーズにできる
- 着物の柄は左側の身頃の方が華やかであることが多く、それが上になるよう着る
- 女性の洋服は左前が多いが、着物はその逆の右前である
- 浴衣や襦袢も同様に右前で着用するのがマナーである
- スマホのインカメラで撮影すると左右反転することがあるため注意が必要である
- フォーマルな場では衿元を約90度に合わせ、喉仏が隠れるくらい高めにする
- カジュアルな場では衿の角度を約60度に緩め、喉仏が見える程度にする
- 年齢や体型によって理想的な衿合わせの角度は異なる
- 「左前になる」とは物事がうまくいかなくなることを表す慣用句である